2016年11月5日(於早稲田大学26号館)
オスロ―大、台北国立大、上智大、そして早大から4人の報告者をたて、標記ワークショップを開催しました。
前半の2報告は世代間衡平、後半の2報告は国際環境協定に関連する理論研究でした。
有村俊秀 環境経済・経営研究所 所長による開会のあいさつと研究所の紹介でワークショップが始まりました。
上智大学の釜賀浩平氏による第1報告 “Infinite-horizon critical-level leximin principles: Axiomatizations and some general results”
は人口を明示的に考慮した世代間衡平を扱い、
オスロ―大のPaolo G. Piacquadio 氏による第2報告 “The Ethics of Intergenerational Risk”は将来の不確実性を明示的に考慮した世代間衡平を扱っています。
これらは持続可能な発展や地球温暖化問題を契機として、1990年代以降、社会的選択論で発展した研究分野における最先端かつ重要な話題です。
後半2報告のうち、早大赤尾による第3報告 “Symmetric Stationary Markov Perfect Nash equilibria in Differential Games”は、
環境問題の国際交渉を微分ゲームとみなしてその均衡解を調べるものであり、
台北国立大のHsiao-Chi Chen 氏による第4報告 “An evolutionary approach to international environmental agreements with full
participation”は国際合意を進化ゲームの確率安定均衡とみなすとき環境保全的合意が得られる条件を調べるものです。
国際交渉に関しては、これまでの主流であった静学的な協力ゲームによる研究に対して、これらの研究は新たな方向を示すものです。
当日は早稲田祭1日目で、道路をはさんだ大隈講堂前が演奏会場となっていて大音響が鳴り響いていましたが、会場は行き届いた防音がなされていたおかげで、静謐な環境のなか真剣で実り多い議論を行うことができました。
ワークショップの報告者は、翌日から1泊2日で、フィールドトリップとして、栃木県那珂川町の木質バイオマス発電施設ならびに周辺の森林を訪ねました。
IPCCの第5次レポートに書かれているように、パリ合意である2℃目標の実現には、バイオマス発電とCCSの組合せ(BECCS:Bioenergy with CCS)の普及がカギとなります。
我が国は豊富な森林資源がある一方、国内森林資源を利用したバイオマス発電は必ずしもうまく行っていません。これはドイツなどと大いに状況の異なるところです。
その原因等については、森脇ほか (2014)が分析しているところですが、実際にどのようになっているかを知るために、優良事例とされる(株)トーセンを訪問しました。
トーセンでは、課題とされる発電所の熱利用に努めるとともに、専門化した製材工場を多数持つことで、バイオマス発電の原料となる端材や未利用材を確保していることを学びました。
上記論文で示された問題点をトーセンはうまくクリアしており、我が国における木質バイオマス発電の普及の可能性を感じさせるものでした。
フィールドトリップでは、周辺のいくつかの森林を訪れ、間伐の遅れが人工林の寿命を縮め、その生態系サービスを損なっていることに気づかされました。日本は気候条件がよいので放っておいても大きな問題にならないし、実際太平洋戦争中に15年間放置された森林もその後の強度間伐で立派な林になっている(強制伐採跡地は28災などの被害を引き起こしましたが)ことから、私(赤尾)は手入れ放置林の問題を、それまで重くは受け止めていませんでした。しかし、人工林の放置は15年どころか30年以上に及んでいます。これは深刻な問題であると認識を改めた次第です。
このように本ワークショップでは、研究報告では抽象理論を論じる一方、フィールドトリップでは現実に触れるというユニークなものとなりました。
(報告:赤尾健一)